※肩井(けんせい)の場所
ご覧頂きありがとうございます。
職人、りき、です。
建設、建築現場でブロック積み等を仕事にしている職人、です。
今回は僕が整体師として活動していた時に実際に診させて頂いたクライアント様にご登場頂き、肩コリが原因で起こった症状が改善していくまでの模様と、肩コリにまつわるお話をお届けしたいと思います。
その日は、朝早くにひとつの電話。
少し以前に交通事故の後遺症が原因でムチウチ症で悩んでいた女性のクライアント様のNさん。5回の施術でかなり改善され、ひと段落して少し久しいNさんから、お友達が突然、首が痛くて動かなくなり大変な事になっているので診てやってほしいとの依頼のお電話でした。病院に行ってレントゲンを撮っても何も異常がないと言われて湿布と痛み止めのお薬をもらって来て、飲んでも貼っても依然良くならないので不安になり、電話をくれたNさんから僕の事は以前から聞いていたらしく、今回のいきさつになったと言う訳でした。
その日は、改善されたクライアント様の月に一度のメンテナンスの日だったので、事情をお話して、翌日にしてもらい、夕刻の薄暗くなる頃、依頼主の元へと急ぎます。
お宅に伺うと今回のクライアント様のご主人が出迎えてくれました。3つ目奥の寝室に敷かれたお布団の上で正座をしながらクライアント様は青白い顔をされて待ってくれていました。顔色を見てすぐに声をかけます。「こんばんは、まだ横になっていて構いませんから、ちょっとした準備もありますので」
すぐ側にはまだ小学生の、そして中学生になったばかりのふたりの娘さん達が心配気な顔をして母親を見守ります。
この様な状況の時、人払いを申し出る先生もみえるみたいですが、僕の場合は至ってオープンにしていた、と言うよりも是非いてあげて下さいと言う方でしたね。
一頻り挨拶をすませると、いつも通りバックからアンケートを出して、書いてもらう為の準備をしていると部屋から出て行こうとする2人の姉妹に声をかけます。「 お母さんペン持つのも大変だから手伝ってくれないかな?」えっ?ここに居ていいんですか?と笑顔を見せる小学生の娘さん。
このようにして邪魔をしてはいけないと配慮して頂くご家庭もたくさんございました。
お母さんが言う通りに中学生になったばかりの娘さんがアンケートに書き込んでいきます。
3人が間々でクスクスと笑う声に小さな華を魅ます。
このアンケート用紙は施術をする時の大事な参考資料となります。口頭での問診が短縮されるだけで無く、どうしても顔を見て話しずらい事等を抵抗なく書いて頂けるように作ってありました。
アンケートに書いて頂いた貴重な資料を元にお話を伺っていきます。
問診が終わるとすぐに触診をしていきます。脈を取り、目の動きのチェックをすると手をギュっと握ってもらい握力の強さをみます。各関節の可動域を確かめます。首を痛めている人は例外なく全身が硬く、関節の可動域もままならない場合が多く無理をすると悪化しかねないので今どの程度動かせるのかを把握するに留めます。クライアント様は痛みで背中を反らせる事もできず首は正常だと真横 に近い所(60度) まで動かす事ができますが、この時はわずかに動く程度。
実はこのクライアント様とお話させて頂くまで首に何らかのショックを受けて痛みが出るムチウチ症を疑っていたのですが、クシャミをしても人によっては出るこの病症ですが全く身に覚えがないと言われます。
ただ、やはりストーリーが有りました。
当時週に4日、パート務めをしていたクライアント様は施術日の3日前いつもの様に10時から15時まであるパートに出かけます。お昼に一旦家にもどると慌しく軽食で昼食をすませるとすぐに職場に戻って職務を再開させます。悲劇は仕事をはじめて30分後に起こります。
クライアント様が発症する数日前から天候が気圧の谷に入り蒸し暑い日も手伝って、子どもの頃から悩まされている持病の肩コリも今までに無い程の症状 (全身の強張り、頭痛等)が出て精神的にもかなり追い込まれる状態の中、人出の少ない職場では休みたいとも言えず無理を押して仕事に行きました。その日の午後も勤め先に休みを申し出ようとした矢先1人に先を越され帰ってしまったので仕方なく食欲も有りませんでしたがお茶漬けを無理やり流し込んで職場にもどりました。
クライアント様の仕事はダンボールの中に商品を入れ、入れ終わった10キロあるダンボールの箱を155センチある自分の身長の胸の高さまで積み上げていくと言う結構な肉体労働です。
職場に戻って30分ぐらいが経ったころ商品を入れ終わったダンボール箱を腰まで持ち上げた時、後ろから会社の社員の女性から名前で呼ばれたクライアント様はダンボール箱を持ったまま上半身と首だけで振り向こうとした瞬間、背中の上部に激痛が走りました。
商品が入ったダンボール箱が音をたてて足元に落ちます。
その場にうずくまり動けなくなってしまったクライアント様は社員の女性に車で病院に連れて行ってもらい夕方からの開院までの時間帯と言う事もあり、診察室に入れてもらうまで1時間以上も待ったそうです。その間に嘔吐の症状まで出た事で病院側の対応が変わったと寂しそうな顔をされてクライアント様は話されました。激烈な肩コリと背中の痛みの症状を伝えるとレントゲンを撮りそれをみながら医師は骨には何も異常が無いとし、その場で看護婦さんに湿布を貼ってもらい痛み止めの薬と湿布を出すので様子をみて下さいと言ってそのまま帰されてしまいました。
レントゲン等で異常が見られる事を(多角的所見)と言い自覚症状のみで判断されるのを(自覚的所見)と言われ自覚的所見の多くは不定愁訴として扱われる事が多いようです。
その夜クライアント様は薬を飲み、湿布を貼り直して休みますが、強烈な痛みはおさまる事は無くその夜は眠れなかっと涙ぐみながら話されました。僕に電話をしてくれたNさんとはとても仲が良く相談の電話をした所、快く胸を叩いてくれたと言う訳でした。
クライアント様のような状態の時、外に出るどころか食欲も出ずお手洗いに行くのも億劫になります。
モーションパルペイション(体や関節を動かしながら骨や筋肉の異常を調べる触診方) を駆使して調べてみると胸骨と言われている腰と首の間にある12個ある椎骨のうち5個の椎骨にとても目立つ亜脱臼(骨折や脱臼まではいかない骨のズレ) がみられ、首には7個ある椎骨のうち4個の亜脱臼がありました。
この亜脱臼、骨はとても強い筋肉に守られていますから気付かずにいる人も多いのですが、そのままでいると人によっては神経を刺激して痛みや病の元になったりします。
不安な顔をするクライアント様に、「大丈夫ですよ!今夜はグッスリ眠って頂きます。ですから施術中は少し気を張って頑張って下さい」そう言うとクライアント様は「えっ?これって治るんですか?」
ずいぶんと大胆な発言をしたものですが、クライアント様を安心させる為にいい加減な事を言った訳ではなく僕にはある確信が有りました。
矯正をする前に鉄板のように硬くなっている体と筋肉を柔らかくしなければいけません。
ここで駆使するのが(気活療法) と呼んでいる、手、手の指、肘、膝等を使いツボの道とされる経絡を中心に押していく(押圧と言います) 療法で、ツボを刺激するだけで無く筋肉に直接触りますのでマッサージ効果も期待できます。まずはこの素晴らしい療法で硬くなった体に挑みます。クライアント様が座っている間に首、肩、背中に触っておきます。とても硬くなっていますがこの時は柔らかく優しく摩る程度にします。意識的には今日のターゲットはお前だよ、と言っておくのです。
通常、最初にうつ伏せになってもらい背骨の横にある脊柱起立筋と言う筋肉を腰、お尻、背中、と一巡目をここから入りますが、うつ伏せになると辛いクライアント様には先ずは仰向けになって頂き、予め用意して頂いていたバスタオルが2枚タオルが2枚、タオルをI枚丸めると後頭部の下にできる窪みに差し込み首と頭が動かないように固定をします。
まずは脚に押圧をしていきますが片方ずつしていきますので休んでいる方の脚の膝の下にバスタオルを丸めたのを差し込みます。こうする事で少しでも楽で安定をした体制がとれます。
ここでクライアント様の顔にタオル等をかぶせる先生がいらっしゃいますが僕的には良くないと思っています。キツイ、弱い、痛い、辛い、そして快適度は顔の表情にでますので、貴重な目安にします。そして何より今自分の体を診ている施術師の顔を見れる事でクライアント様には安心して頂けます。
もちろん、こまめな声かけは欠かしません。
・まずは左脚からです。膝から下、足首の少し上の方を両手で持ちストレッチさせます。
・その後すぐにクライアント様の左脚のふくらはぎを正座をした僕の左脚にのせ、足の三里を中心に脛骨ぞいに僕の左手の親指をポイントに当てその上から右手で補助をしながら押圧をするのと、ふくらはぎの下に手を入れ両手の親指を除く8本の指で持ち上げるように押していき、これをワンセットで回数で言えば3、4回クライアント様の呼吸に合わせながらリズミカルに押していきます。
・膝のお皿の部分を手のひらで押し揉むようにこの回りにある筋肉と靭帯を温めます。
・大腿部(太もも) の外側も手のひらと指を使って押し揉み、内側は曲げた膝を外側に開らくようにして膝の少し上から鼠径部(股の付け根)に向かって手刀の部分で押していきます。
この部分は柔らかく皮膚感覚も敏感な所です。特に鼠径部はその下に大きな動脈が通っていますから油断は禁物です。
・膝を上体の方に上げて膝が約90度になるようにキープしながら、太ももの裏側に左側の膝頭を当てて押圧します。クライアント様の膝と太ももを持つ両手の引き具合と膝で押す力で強弱を調整します。
脚の裏側はうつ伏せになった時にもう一度入念に押圧しますので、ここではあくまでうつ伏せになれる状態を作るようにします。
これらの作業を反対側の脚にも同じように施していきます。
最初の段階で伝えるのですが、お手洗いを我慢をするクライアント様がいますので、この時ぐらいにもう一度声をかけます。そしてこれは最初だけですがガス(おなら)も我慢をしないように言います。押圧によって筋肉がほぐれ体が弛緩してきますと血流と共に体調も変化をして行きますので、このようなきめ細かな配慮も欠かせません。
次にクライアント様には横向きになって頂きます。
やはり左側を上にした状態をキープして、バスタオルとタオルを使って会釈をする時ぐらいに首を前に曲げて頭と首の位置を整えます。上になっている左脚の膝を曲げて前方の床に着けて体がふらつかないように支えてもらいます。手、手の指、腕、首回り、鎖骨、大胸筋上部、肩、広背筋、僧帽筋(肩周辺から背中へと続く大きな筋肉で上部、中部、下部分けられています) の上部へと押圧を進めます。
普通ならここで肩甲骨にも手を入れてほぐす所ですが、丁度その位置にも亜脱臼を起こしている椎骨があります。普通に湾曲的なズレならいいのですがこの亜脱臼は椎体が体の内側に食い込んでいて上からの圧がかかると強い痛みがでますのでここでは見送ります。
このようにして普通でいけばうつ伏せになったクライアント様の腰、お尻、背中と背面を最初に押圧しておきたい所ですが、一応のセオリーは有るもののその時のクライアント様の体の状態を見極め臨機応変に対応し、クライアント様にとってベストな施術を施していきます。
背骨を守る脊柱起立筋とお尻の部分以外の押圧が一応終了です。ここまですると大抵は楽にうつ伏せになってもらえます。「さっきまであんなに辛かったのに信じられない、凄く楽です」クライアント様はそう言うと明るい笑顔を見せてくれました。
そしてここまで施術が進んでくると僕の経験上全てのクライアント様が心と体を信頼をして預けてくれるようになり、最初は緊張していたクライアント様とのやりとりは会話からお喋りに近いものへとなっていきます。「私が疲れた顔をしていると、この子達が(近くにいる2人の娘さん)肩たたきをしてくれるんですですよ」と嬉しそうに話されますが、この言葉に一瞬僕の手が止まります。「肩たたきは絶対にしてはいけません。後でその理由ともっと楽になれる方法をお教えしますから、とにかく肩たたきはしないで下さい」
背中をチェックすると思っていたよりも脊柱起立筋が柔らかくなっていましたが背中にある亜脱臼に触れると痛みが出ますので、先に矯正を済ませる事にしましたが、それまでできる事は全てしておきます。
まず左側のお尻からですが膝を使います。
お尻もその形や肉付きから座ったりする時等にクッションの役割をしますが中は動脈、静脈、坐骨神経、リンパ管等が通っていたりしてその構造は繊細です。片側のお尻全体の真ん中より少し上のこれも少し外側に押すとツンとわりと強い刺激のある部分が有ります。ここに左膝を当て、両手はクライアント様の体が動かないように反対側の骨盤の所をしっかりと持ちます。30秒から1分ぐらい続けます。
予めお伝えしておくのですが、あまりの刺激の強さにギャッ!と叫ばれたクライアント様が何人かいましたが多少の強弱は調整しますが、止める事は致しません ( 笑 )このお尻の押圧はそれ程良く効きます。全身の調整に欠かせないだけでなく、特に腰が辛いと言う人には特効的な部分と言えます。僕も寝る前によく押していますが、ご家族の方に手伝ってもらえると言う人は足の踵で踏んでもらうのもいいですし、1人でする時は床に仰向けにねてテニスボール等でグリグリやっちゃってもいいと思います。痛気持ちいいでやって下さい。
片方ずつが基本ですからお尻を押したらそのままハムストリングスと言われる太ももの裏側、ふくらはぎ、アキレス腱、足裏、足の指を両手と指を使って押圧をしていきます。
最初の視診で右足首から指の部分が体側に向いているのを見て気になったので聞いてみると一年程前に階段で足を踏み外して捻挫をしたと言われ病院には行かず市販の湿布を貼って痛みがおさまるまで我慢をしたそうです。足回りは体を動かしたり、体を運ぶと言う日常で極普通にする行動の土台の役目を荷負う大事な所で、歪んだまま放っておくとやがて全身のバランスを崩す原因になりますので、足の指までの押圧が終わった時点で(足首の矯正) で治しておきます。クライアント様の場合、右側の骨盤が前傾する症状も出ており「最近よくつまずくんです」と言われましたが足首とこの後行う骨盤の矯正で整えばかなり改善されるはずです。
反対側のお尻と脚の押圧も終わり先に背中の所にある亜脱臼の矯正をしておきます。目立つ亜脱臼は5個有りました。その内の3つが椎骨には椎体と言う椎骨の本体にあたる所があり、この椎体の部分が何らかの事情で傾きながら体側の中へ刺さるように入ってしまうと言う亜脱臼です。その部分は圧を加えると痛み、一つでも有ると振り向く等の動作が困難になります。
椎骨には椎体から羽根のように横に伸びている骨の部分があり、横突起と言われています。この横突起に両手の親指を当て、押してテコの原理を利用します。うつ伏せになったクライアント様の顔、頭の位置をタオルで固定し、予め用意してもらっていたクッションを胸の下にひいてもらい、クライアント様に大きく息を吸ってもらいます。親指は横突起の上に置き、息を吸い切る少し前、体が弛緩したタイミングでアジャスト(矯正)します。ポキ!と言う音と同時に椎骨が正常な位置へと戻ります。後の2箇所も同じ要領で矯正し、本来のあるべき所に戻りました。
手で少し圧をかけただけで体がピクンと反応するぐらい痛みを発した亜脱臼のあった場所は僕の体重を乗せた手を置いてももう痛みません。これで、うつ伏せになった状態でもう一度首をそして背骨のすぐ横にある脊柱起立筋、を片側ずつ入念に押圧し、横にになってもらってこれも片側ずつ肩甲骨周辺の筋肉をほぐしていきます。
これで顔、頭以外の全身の押圧が終わりました。
このようにして気活療法によって体はあるべき形、正しく機能を発揮するべく、目覚めていきます。
いよいよ矯正をしていきます。
まずは骨盤です。お尻の両側にある大きな骨を腸骨と呼びます。腸骨の一番上の部分を腸骨稜と呼びその一番高い所を横一線に引いたラインをヤコピー線と言われてますが正常ですと前、後ろから見た場合同じ高さで水平でなければいけません、クライアント様の場合左側と比べて右側が1センチ以上低くなっていましたので多角的に診た結果、右側の腸骨の前傾だと分かりました。仰向けになって頂きお尻と腰の下にクッションをひき手の平でする押圧法で矯正しますが、繊細且つ大胆な微調整が要求される技で熟練が必須です。この骨盤が果たす役割は全身の機能をつかさどると言っても過言ではなく放置して置くと全身のバランスや体調を崩していきます。クライアント様は30代後半とまだ若く体力も有りますがやがて来る更年期や今回の症状が再び訪れそうになった時の( 今はまだ出ていない症状の予防の為に ) クライアント様と話し合った結果、矯正を望まれました。
腰部も仕事が肉体労働だと言う人に多い湾曲性の亜脱臼が出ていましたので、これも矯正で正常な位置に戻しておきました。
背中にある胸骨は先程3個の亜脱臼を治しましましたが、まだある2つの大きな亜脱臼の矯正と全体の調整が必要です。2つの亜脱臼は湾曲性のものですので全体の矯正で元に戻ると確信したのでそのまま進めます。クライアント様には正座で座って頂き何かを抱きしめるように腕を交差させた手を僕が後ろから左右の手でつかみ、後ろに反らせた後頭部の下にできる首の窪みに僕の頭を当てて頭を固定します。膝頭を胸骨の一番下の椎骨の横突起に当てると上に押し上げるように、1つひとつ丁重に肩甲骨の下まで矯正し、今度は正座をしていた脚をまっすぐに前に出して指を交差させた手を後頭部に置いてもらい後ろから肘の所にできた空間に僕の腕を通しクライアント様の手の上に僕の手を重ねます。膝でしっかりとお尻を挟んで固定し、クライアント様の背中に胸を着けて息を吸い切る直前に一気に真上へと引き上げます。ボキボキボキボキ!と音を立てて背骨の上部の部分が正常の位置へと戻ります。異常がないかチェックをして胸骨の矯正が終了です。
続けて首の矯正です。
脳と体幹を結ぶ唯一のパイプの役目を果たす大事な部分で一呼吸たりとも息の抜けない所です。大きな亜脱臼は4つありました。もう一度入念にチェックします。間違いが無い事を確認し、仰向けになったクライアント様の首の後ろに親指を除く8本の手の指を差し入れて少し持ち上げ気味に手を動かしながらもう一度筋肉をほぐします。首の辛いクライアント様のほとんどが男女を問わずこの部分の作業にウットリ顔をされます。しかしその顔を見て施術師がウットリするのは全てが無事に終わった後です。
充分に弛緩をした首の筋肉を確認するとタオルをネジって一本のロープのようにすると、タオルロープの真ん中をクライアント様の後頭部に引っ掛けるように当てがい、耳の上を介して頭の上でタオルロープを交差させてネジリます。ネジった部分を利き手の右の手で持ち左手は後頭部にやりタオルロープの上から添え、クライアント様の呼吸に合わせて牽引します。ゆっくりと筋肉と骨の伸び具合を確認しながら、ゆっくりと・・ゆっくりと引いて戻してを3回目を引いた時思っていたよりも伸びがよく、なめらかです。
4個有る亜脱臼を両手を使ってする( 頚椎の矯正法 ) で椎骨を正常な位置へと1つひとつポキ!と音と共に正常な位置へともどします。
クライアント様は目を丸まるとされて驚いた顔になります。痛みはありましたか?の僕の問いに「いえ、ビックリしちゃって。ぜんぜん痛くないです、凄く気持ちいいです」
放心で爽快な顔をされたクライアント様を見ると「あぁ、この仕事やってよかったなぁ」って思える瞬間です。
クライアント様は「さっきまであんなに辛かったのに信じられません、魔法にかかったみたい」そう言うと来た時にはなかった笑顔を見せてくれました。
背中も首も正常に動くようになり僕の手を握る握力も力を込めて握れるようになりました。
最後に骨と筋肉のチェックをして、これで施術は終了です。
でも僕の仕事はまだ続きます。
健康体になったクライアント様がその体を維持する為のケアの仕方とエクササイズの指導があります。この時は2人の娘さん、そして途中から娘さん達と施術を見学されていたご主人も参加して頂き、まるでリクエイションをしているような楽しい時間となりました。
もちろんパートナーシップで2人でできるケアも教えます。( 例えば前出のお尻の押圧ですね。当然おふたりでされる方がやり易いです )
今回のクライアント様、背中と首が痛い、が主訴でしたが元の原因は肩コリです。お話しを伺った所、まだ小学生になった頃から祖母と母親がしていた内職のお手伝いをするのが日課だったそうです。学校から帰ったら宿題をすませると1日に2時間ほどお手伝いをしたそうです。その作業は床に座ってお茶碗や湯呑みに祖母が描いた絵に色を塗っていく仕事で、この体制は体が前倒しになり首も前屈みになります。幼少の頃に身についたネコ背、次第に歪んでいく首が血流を妨げ、冷え性をまねき体の中で悪循環を起こした状態で長年何のケアもしないで放置してきました。
強烈な筋肉の委縮、肩コリが首、背中の骨に亜脱臼を招き、それが原因で言わばギックリ腰の背中版と言えます。その場で立てない程の痛み、まさに魔女に一撃をされてしまいました。
クライアント様はいかほどの辛さがあった事か。
しかし、こんな状態でも初めて受ける施術の反応が良かった原因は日常に有りました。仕事です。毎日10キロもあるダンボール箱を何十回と持ち上げる作業はクライアント様の全身の筋肉を知らず知らずのうちに鍛えていました。
こう言う作業で作った体には底力があります。我慢強く頑張り屋さんの性格にこの底力があれば無敵です。
残念なのは使った後の体のケアが出来ていなかった事です。使った体や筋肉にケアが加われば弾力と柔軟性をもたらします。
クライアント様にはストレッチやツボ押し、筋肉を矯正するエクササイズ、そして姿勢の矯正、体のケアの仕方と食べる物のアドバイスをさせて頂きました。
この後一週間後に様子見の施術を一回と1か月後のもう一度ケアの復習をする施術プランを提案させて頂き1か月後伺った時にはご家族で完全にマスターされていました。
僕の言う事を熱心にノートに書く中学生になったばかりの娘さんの姿がとても印象に残ります。
1か月後に軽目の施術とケアのチェックを終え、とても楽しい時間を過ごさせて頂いた後 「くれぐれもお大事にして下さい 」と言って玄関を出ようとする僕を中学生の娘さんが呼び止めます。
・・・・まだ、終わらない・・・・
ハイ!もう3月も終わり4月へと突入です。四日市では桜も満開を迎えていますが、ホント時間が経つの早いです。まだ寒かったり暖かくなったりと忙しい気温の変化で体調を崩さないようにしたいものです。
自分がした施術を文章で実況 ( 笑 )
初めての試みでしたが難しいですねぇ、読み返してみて「え〜こんなんでわかってもらえるかなぁ」なんて思ってますが表現の甘さはヘタな文面と合わせてどうかご容赦くださいませ ( 笑 )
読んでみて思ったんですけど、大変な仕事だなぁって ( 笑 )でも、整体師としての活動は間違いなく僕の人生にいい影響を与えてくれました。人間ですから人との出逢いはやはり素晴らしいですね。
今回は肩コリをやってみたいと思います。
腰痛と並んで日本では国民病と言われている程多く、男性で言えば一番目が腰痛で次いで肩コリが多く、女性は肩コリの次に腰痛です。この順番の違いは男女の筋肉の量と質の違いから来ています。一般的に男性よりも筋量の少ない女性は個々で違いは有りますが5キロ以上はある腕のぶら下がりに耐えきれていないのが1つの原因です。
首もそうです、首から上の頭の部分はこれも5キロ以上あり30度前に傾けるだけで18キロの負担がかかり、60度になるとナント27キロのダメージが首を苦しめます。首コリにもなると言うものです。首のダメージは肩コリにもなるケースが非常に多く切り離して考える事はできず、この辺のケアもとても大切です。
僕が診させて頂いたクライアント様方で肩コリが主訴の場合、男女に関係なく肩だけにとどまらず首、背中、腕はもちろん、多くの場合ふくらはぎまでそのダメージは及びます。
僕が診させて頂いたクライアント様は全体で言えば7割強の方が女性でしたが例えば股関節で依頼されて伺うと必ずと言っていい程肩もやって(笑)腕、頭を支えるだけでも首、肩にかかる負担は相当なもので、増して体のどこかに痛みがあればそのストレスは常に疲れている所にも及びます。
出張施術を始めた頃は、部分整体、全身整体と分けてしていた時もあったのですが、僕にはトレーニングで得た経験や知識もありましたので体質改善にも成果が出せる施術を追い求めた結果、目についた所は全部やっちゃおう(笑) となっていった訳です。合わせて何とかご自分でケアができれば、よりいいと思いその研究にも取り組みました。
整体は健康保険の適用が有りませんから全て実費になります。例えば一般の主婦の方が1日に5時間パートで働いて得る金額がたぶん一回の施術代と同じぐらいになると思います。余程続けて施術が必要な時は別ですが5回呼んで頂く所を3回にできないか2回にできないかと思ううちにケアやエクササイズの指導をする事になっていきました。
話が逸れたので、戻します ( 笑 )
ここでは僕が迷わないように( 笑 )肩コリのタイプ別にやってみたいと思います。
・・・一般的な肩コリ・・・
使わなさ過ぎ、使い過ぎ、悪い姿勢
例えば一日中デスクワークで体を動かさない、肉体労働等で過度に体を使う、前出でもやりました頭の位置を前屈みにした姿勢を長時間続ける等がこれに当たります。
体や筋肉が硬くなると体液や血液の循環が悪くなるのが多くの原因になります。やがて骨にまで影響を及ぼし、亜脱臼を呼びます。予防できるのが一番良いですが、凝ってるなと自覚があった時に放置しないで、早目にケアする事をオススメします。
・・・ストレス性肩コリ・・・
何かの事情で常に重圧、プレッシャーを抱えている人に多いです。心因性肩コリとも言われていますが人は目の前の事にとらわれている時に無意識に肩に力が入るものです。思っているより深刻な状態になります。
過度のストレスがある状態があると交感神経が活発になり、これが長い時間続くと血液や体液の流れを悪くして、やがて肩コリを痛みへと変えていきます。責任感の強い几帳面タイプの人に多く、悩み事や不安感をコントロールできない人等がなりやすいようです。
ストレスを上手に発散できる事が一番の対策ですがナカナカそれができないのが常です。
睡眠不足が追い討ちをするケースも多いようです。
しかし放置するのはやはり良くありませんのでセルフケアを覚えるとかマッサージを受ける等をしてもいいですし、リラクゼーション系のケアを受ける等をして少しでもリラックスできる時間を取るようにしましょう。
・・・病院が必要な肩の病気・・・
病理的には症候性と言われる病状を言います。痛み、しびれが伴ないマッサージやセルフケアでは解決できません。
( 頚椎椎間板ヘルニア )
椎間板ヘルニアと聞くと腰の部分を思い浮かぶ人は多いと思いますが、首の椎間板ヘルニアも多いです。
あるクライアント様は右半身が手の指先まで痛みと痺れが有ると言われましたので、病院での検査を進めたのですが、頚椎椎間板ヘルニアと診断されたそうです。「一週間後に手術をすると言われました」とわざわざ連絡を頂きました。こう言う場合僕は何もしない事にしています。医師の判断が必要な時は速やかに病院に行くように伝えるのも療術師の仕事です。進行すると痛みやしびれが首、肩、腕、手の指先に出て非常に辛い病気で、ひと昔前までは手術をしても後遺症的な症状が残る等の話も聞きましたが、現在では滅多に無いそうです。
( 四十肩 )
病名は肩関節周囲炎といいます。
病院で診断を受けた方から依頼をお受けする事が多かったですね。老化に伴って筋肉が固くなり、関節の動きを滑らかにする滑液がでにくくなり、骨や骨を繋いでいる靭帯等が劣化が進み、炎症を起こして痛みが出るとされていますが実はまだ解っていない所もあるようです。進行すると腕を上げようとしても痛み、ジッとしていてもジンジンと痛む事が有ります。40代前半でなる人がいれば50代で発症する人もいます。僕が診させて頂いたクライアント様では、女性では40代後半、男性では50代の方達が多かったと記憶していますが、女性が若くしてなるのは、やはり普段からかかる負担が大きな原因だと思います。なってしまった人は最善のケアをしながら怖がらずに少しずつ動かしていく習慣をつけていきます。使わなさ過ぎも原因にのひとつとされますので、普段から意識するのはなかなか大変かもしれませんが、予防としては腕を肩よりも上に上げる習慣をつけておくと良いようです。
( 肩腱板損傷 )
この症例も有りましたが、やはり病院で40肩と診断されて来たクライアント様に関節の可動域を計ろうとして動かそうとすると痛みに対する反応が異常に感じ、もう一度設備の整った大きな病院で診てもらって下さいと言ってその日は何もせずに帰ります。数日後やはり連絡を頂きこの病名を聞かされて「 整体で何とかならないの?」と言われましたが、医師の指導に従って下さいと宥めた記憶ががあります。
肩の部分に付いている筋肉を三角筋と言いますが、その奥にある腱が加齢や障害で切れてしまう疾患です。強い痛みを発して自分で腕を上げる事ができなくなります。画像検査で分かりますが、見た目だけだと40肩との見分けが困難と言われています。
( 頚椎症性神経根症 )
えっ!首でしょ?と思われる方もいるかもしれませんが、ちゃんと繋がっています(笑)年齢を重ねる事によって椎骨と椎骨の間にある椎間板が変形を起こし棘のように尖った骨が神経を圧迫させてしまう疾患です。多くの場合、手の指、手、腕等に痺れを起こさせ、肩回りや背中に強烈な痛みも出る事も有るそうです。
( 胸郭出口症候群 )
これも病名だけだと分かりにくいんですが、この病気も肩まわりで起きる病気です。小胸筋と言われる筋肉と助骨の間や鎖骨と助骨の間で腕を支配している神経の束が圧迫されてしまう病気です。腕を上げようとすると痺れたり、肩に痛みが出たりします。
肩コリは今まで経験が無いのに、ある日突然に症状が出た、と言う人も少なくありません。病気であって病気でない意識がついつい放置をする原因になっているようです。体の中はどのような事が起こっているか分かりませんから、酷い状態になる前にケアをしたいものです。
これだけはやっておきたい。と言うケアを少しやってみたいと思います
普段から日常で腕を肩より上に上げる動作は思いのほか少ないと思います。
肩は固まった状態で血液や体液の循環を悪くするのが肩コリの原因の1つなので、できれば1日に数回肩回りをよく動かす習慣をつけて下さい。
・よく肩をすくめると言いますよね。あれに似た動作をします。立っても座っていてもいいので腕をぶらりと下に体の横に置きます。腕を持ち上げるように肩だけを上にあげます。その時手の平は上に向けておきます。そうする事で体の気が下に逃げません。10回が目安です。
・体の前に出した腕をキープして手の平は合わせるようにむけます。そのまま体の横に移動させて元にもどします。左右にある肩甲骨の間に菱形筋、肩の所にあるのが三角筋と言い三角筋は前部、中部、後部と別れていて、ここでアタックするのは後部です。肩コリの人はこの筋肉が弱い傾向にあるので上体を前に倒して( お辞儀をする時の体制です ) するとこの筋肉がきたえやすくなります。ポイントとしては腕を上げる時に肩甲骨を寄せるようにして、持ち上げる時に息を吐き戻す時に吸います。10回が目安ですが最初はできるだけでいいです。腰が痛いと言う人は椅子に座った状態でしてもいいです。
・ぐるぐると肩を回した後に腕を横から息を吐きながら持ち上げて頭の上で手を結んで息を吸いながらな下げて元に戻します。この動きは肩甲骨も上下に大きく動きますのでとてもいいです、是非やってみて下さい。10回が目安です。
10回が目安と書きましたが個人差がありますので慣れるまでは無理の無いようにして下さい。
これだけはやっておきたいでしたがとても手軽に・・・えっ!ええっ!面倒くさい?( 笑 )・・そ、そういう人は朝、布団の中でやっちゃいましょう。朝、目覚めたら仰向けになって頭から枕をはずして両手を重ねてお腹の上に置きます。ゆっくりとゆっくりと鼻から息をすいます。吸った息はお腹に溜めながら膨らませて、重ねて置いた両手を持ち上げるように限界まで吸い込みます。吸い込んだ息は5秒間止めます。止めていた息はゆっくりとゆっくりと今度は口から吐いていきます。この時に息を吐きながらお腹を限界までへこませます。お腹の中にある息を吐き切ります。これで1サイクルでかける時間は長ければ長い程よく、息は5秒とは限らずできる人は10秒止めても良いです。息を止める事で横隔膜 ( ここが痙攣する事でシャックリが起きます )が鍛えられます。
イメージとしては髪の毛の先から足指の爪先まで酸素を送り込むように吸い込みます。息を止めている時は無限の宇宙空間に身を置いている自分を想います。息を吐き切る時も体中にある酸素を一旦外に出す事をイメージしながらして下さい。
冗談から始まりましたが、必ずやってほしいと思う事は、実はこの呼吸法です。若い頃プロレスラーになりたいと思い関節技の基礎を身に付けたいと合気道を習いに行った時に教えて頂いた呼吸法に自分の感性を付け加えたもので、朝1番でやっておくと気持ちが良くなり、慣れてくると歩きながらでもできるようになります。5回ぐらいはしたい所ですが、1回でもやらないよりは全然違います。腹筋をかなり使いますので体力をつけたい人やダイエットにも効果を発揮をします。
肩コリは体に酸素を取り入れる力が弱いのが原因のひとつとする先生方も多く、僕も同感です。この呼吸法は全身に気を満たせる効果も期待できますので、是非、日常の健康法の1つに加えてみて下さい。
もうひとつです ( 笑 )
呼吸法が終わったら仰向けに寝たまま腕を頭上に上げます。寝たままバンザイを10回程しておきます。起きた時に肩甲骨の動きがスムーズになっている筈です。腕を上げながら胸を開くようにして息を吸います。そうです、今度はお腹ではなく胸に酸素を取り入れます。戻す時に息をはきます。
呼吸法も合わせると5つ有りましたがやらないよりは、やって頂いた方が改善にも予防にもなります。
ハイ!やっぱりそうです。
肩コリなんかヤッツけて
頑張ろうぜ50代・・・です。
ありがとうございました。
ごめん下さい。
ps やはり若い頃、療術の世界に身を置いて1つでも多くの知識そして技を習得する事に貪欲になっていた僕は加盟している連盟とは違うセミナーに参加し、そこで運命のN先生と出逢います。当時の療術院にも招いてもらい、その時にいた3人のお弟子さん達ともお酒を頂きながら楽しい時間を過ごさせて頂きました。
四日市で夜間を中心に整体師として活動する僕にひとつの電話。電話の主はN先生から。セミナーの講師が都合が悪くなり、ひとつの授業が空きになったから、りきが何かやってくれないかと言う依頼の連絡でした。迷いに迷った結果、何事も経験だと思いお受けしてから頭を抱きます。
東京のセミナー会場に着いて控室で講師の方々との挨拶を済ませた後、僕の受け持ちの授業は筋肉と食事の関連学で、栄養学の授業もあり内容が重ならないように、この時に担当した整体師で栄養士でもある30代後半の若い女性のS先生と打ち合わせをします。
僕が作った資料に目を通すとS先生は「りき先生はどこの大学を出られたんですか?」と聞かれたので「はい、四日市体育館大学です」(笑)
「地元の大学を出られたんですね、見た目通りやっぱり体育系なんですね」と、あまりにも真顔で言われて、僕はプッっと吹き出しながら「冗談ですよS先生、僕ね、中卒なんですよ、貧乏だし勉強もできなかったんで高校には行けなかったんです」
S先生は少し切れ長の目を丸くすると 「アハハハN先生が面白いのが来るからとおっしゃってましたけど、本当に面白い方ですね」と言ってニッコリ。S先生は今だに僕が大卒だと信じている ( 笑 )
50人程と聞いていた受講者は100人強の人数になっていて、当時の健康産業への関心の高さが伺えますが、この時はそんな事を思う余裕がある訳はなく、初めての経験に緊張のバロメーターはマックスをぶっち切ります。
次が僕の番です。確かこうするんだっけ、呟きながら手の平に人と言う字を書いて飲もうとして止めます。
・・人を飲む事等できはしない・・
時々笑える冗談を交えながらの僕の授業は1人の睡眠者も出さずに(笑)無事に終わる事ができました。
四日市弁(笑) かくさなかった言葉のイントネーションの受けも良かったようです。
このセミナーでもうひとつ素敵な出会いが有りました。講師のみなさんと挨拶の交換が終わってすぐに、1人の先生が肩コリの話の流れで肩の叩き方の講釈を始めました。さも、それらしい事を言うのですが、横ヤリが入ります。
「君ィ、肩たたきはやっちゃダメだよ、病人を増やしているようなものだ!これからはやめなさい!」
声の主はそこに集まった10人の先生方の中で唯一の東洋医学に精通した漢方医のR先生。当時65歳。
そう言われた先生は一瞬ムッっとした顔をしますが、R先生の貫禄は皆が束になってかかっても勝てない雰囲気を醸し出します。
・・・・・威風堂々・・・・
その存在感は他者を容易に寄せ付けないものがありました。まだ若く、怖いもの知らず(笑) の僕はR先生に声をかけます。個人的な挨拶はまだでしたので、「 R先生、三重県四日市の (みえりき整体療術院)の(りき)と言います。勉強不足でして、もしお許し願えるなら肩を叩いてはいけない理由を御教授お願いできないでしょうか?」と言うとR先生はギョロリとした大きな目で僕の顔を見ると顎にたくわえた白い髭に手をやりながら「ん!キミがりき君か、Nから聞いとるよ、Nは私の所に5年程いた事があってね、アイツの診立てと技術は確かだ、いろいろと学ぶといい。その、答えもだ!」そう言うと目を細めてニカリとした顔を見せてくれました。
終わったら反省会も兼ねて食事でもとS先生と数人の講師の方々に誘って頂きましたが丁重ににお断りしてN先生の元へと急ぎます。2度としないと決めた講師の仕事に反省の意味も感じなかったし、修行中の身でありながら人に何かを教える気持ちにもなれませんでした。いい経験をさせて貰ったと言う感謝の心だけ置いて会場を後にします。
やっとN先生に会える、喜び勇んで治療院の扉を開けて飛び込みます。「オウ!りき!来たか、中に入れ」
先生のいる施術室のドアを開けると先生と上半身が裸になった女性がひとり。「おぉっと!失礼!」慌ててドアを閉めます。ドアの向こう側から「りき!いいんだ、中に入っておいで」と言われたので、そろりとドアを開けて中に入ります。
施術ベッドに座っている女性とチラリと目が合い軽く会釈を交わすと、目のやり場に困る僕を察し女性はクスッっと細く笑みます。
「丁度いい、今触診が終わった所だ、いい機会だからお前も診立ててみろ、たぶんお前にとっては今までに無い症例だ、気にしなくていい、俺の身内だ」そう言うと先生は椅子にドカッと座って脚を組ませ、腕組みもします。
さながら鬼教官と言う所か(笑)
女性はKさんと言い先生とは従兄弟の間柄で先生より8つ年下の当時49歳、中部地方で旅館を経営する家に嫁ぎ、長女が若女将になったのを機に時間を取って東京に帰って来たのは親と会う為だけでなく、半年前から特に強い痛みがでる背中と肩コリを先生に診てもらう為でした。親同士が大変仲が良くひとつ屋根の下で一緒に暮らした事もあったらしくKさんが幼少の頃、先生がお風呂に入れていたとか。先生とは10年ぶりの再会だそうです。
裸の女性を触診するなど初めての事で緊張と言う名の岩が僕の肩にズシリと重りかかります。まずは術着( 体の前を隠し背中が空いている衣服 ) を着せようとしますが先生の口が開きます。
「りき!それを着せる前に乳房の位置を確認しておけ、こう言う症例の患者は体のあらゆる所にサインをだす。どんな些細な事も見逃すな!邪念を捨てろ!患者の痛みと向き合うんだ!集中しろ!!」
「はい!」と返事を返すと、脳の深部でピーンと言う音が聞こえ、スイッチが入ります。手に持っている術着をそっとベッドの端に置くとKさんの顔を見て頭をひとつ下げると「始めます、宜しくお願いします」挨拶をするとKさんは「アラ、先生の顔になったわよ、兄さん(先生) が見込んだ若いお弟子さんに診てもらえるなんて。こちらこそよろしくお願いします」
まずは深呼吸をしてもらいリラックスポジションをとって頂き肩の位置、頭と上半身のバランスをはかります。右肩が左肩に比べて下りがあり、頭の位置は体に逆らうように左側に寄ります。
ベッドの下から高さ10センチの足踏み台を出すとその上に膝まずきKさんの乳房を真正面に見捉えます。やはり右側の乳房が左側に比べて1センチ強の下りがあり、その上部の肉付きが薄くなっています。加齢による体の変異を含めても明らかに脊柱の右湾曲が原因になっている事を確信します。
そのまま関節の可動域を測り、脊柱の触診をしますが、胸椎の7番目の椎骨の所で僕の手が止まります。
触診が終わって先生に報告をすると胸椎にひとつの亜脱臼の見落としを指摘されて厳重に注意をされた後、気活療法で体をほぐして、いよいよ矯正です。
先生の出番ですが、ここでも先生は僕に勉強のチャンスを用意してくれていました。
前出のクライアント様を覚えておいででしょうか?僕がKさんの背中で手を止めた所にあった亜脱臼はクライアント様と同じもので、先生はまだこの亜脱臼の矯正の経験の無い僕に2つのうち1つを僕に任してくれたのです。その後いくつもの同じ症例を経験する事ができた後にクライアント様と出会い「今夜はグッスリ眠って頂きます」と自信を持って診させて頂く事ができたのです。
「りき、これが終わったら3人でビールでも飲もうじゃないか」Kさんの矯正を始める前にウインクをしながらそう言ってくれた通り、そのあと治療院から歩いて行ける程の距離にある先生の行きつけのお寿司屋さんで楽しい時間を過ごさせて頂きました。Kさんの人の自尊心を尊重した人との接し方に深く感じ入り、明るく、それでいて控えめな立ち振る舞いは、お客さん商売のそれとはまた違う内側から出る人間性が出す雰囲気に完全に虜まれてしまいました。
その時、教えに行った東京行き。学ぶ事の方が多かった事に今でも感謝の気持ちでいっぱいです。生きていて嗚呼こんな人になりたいと思える人との出会いは少ないと思えるのですが、それに恵まれた事はとても幸せです。N先生、R先生ももうお会いする事は叶わない方々となってしまいましたが、ありがとうございました。の気持ちは・・・・今も・・・
乳房や肩で体を診る下りがありましたが、宜しければ男女を問わず参考にして頂きたいと思います。できれば足が床に付かない高さの椅子か平らな台に座って鏡に写してみるとわかりやすいです。こうする事によって脚等に変異があった場合の影響を防ぎ、脊柱が上肢にかけている負担を診る事ができます。ご夫婦でチェックし合うのも素敵ですね。
エッ!みんな脱がすのかって?(笑)
僕が療術師として活動していた期間で女性の乳房を診たのは後にも先にもKさんだけでした(笑)
先生もお身内ですし、触診がしやすいからとおっしゃっていましたね。何と言っても、一緒にお風呂に入ってた間柄ですから (笑)
小さな子どもがお母さんの肩をタントンタントン。大変微笑ましいシーンですが少し怖いお話につながります。R先生が言ってた、肩たたきはしてはいけないと言うのはどう言う事かN先生にご馳走になったお寿司屋さんで聞いた所、東洋医学的な考え方で肩を叩くと女性で言えば、まず乳房やお尻が下にさがり、体のあらゆる部分例えば臓器や体液等も下に下げてしまうそうです。
肩たたきをする部分にアタックしたい時には首の根本にポコリと出ている骨(頚椎の7番)から肩の先端(肩幅) の丁度真ん中に肩井(けんせい) と言うツボが肩コリによく効きます。押す方の肩の反対側の手の親指を除く4本の指を肩井の所に引っ掛けるようにおきます。押す方の肩の手で肘を下に引くようにすると押しやすくなります。あと、ここの筋肉を上に引っ張るようにつまみ上げるのも気持ちいいです。痛気持ちいいでやってみて下さい。
前出のクライアント様に文章にご登場をして頂くにあたって承諾を得に連絡するとお引越しをされていて電話番号もわかりません。仲が良いNさんにお願いをして取次いでもらいやっとお話をすることができました。文章を読んで頂くと「実名を出してもいいんですよ」と言いながら笑って快く承諾を頂きました。
ブランクを感じさせない気さくさで楽しい会話の時間を楽しませてもらいました。
3回目に伺って帰ろうとする僕を呼び止めた当時中学生の娘さんが「私も先生のような仕事ができるようになれるでしょうか。一生懸命働いてくれるお母さんを自分の手で楽にしてあげたいと思いました」と真剣な目を僕にむけます。
「真面目にやる気があれば、誰でもできます。でも医療関係の仕事はたくさんあるから、調べてみてお父さんとお母さんに相談して決めたらどうかな?まずは勉強をして高校だけは卒業しておいた方がいい」
心優しいこの娘さんは今、歯科助手とマッサージ師の免許を取得して身内でする月に一度の食事会の前に体のケアをしてくれるのだとクライアント様は幸せな顔をして話してくれました。
玄関を出て車までの途中で、やはり母を想いこの世界に入った10代だった自分をフラッシュバックさせます。小学生、中学生の時に宿題もした事のない人間が人様に勉強しろなんてよく言えたもんだ、と溜め息まじりの苦笑いが・・・ひとつ・・・